ネタを認められたいから芸人になったわけじゃない。
キャーキャー騒がれたくてなったんですから。
日本にいる頃は、
『芸人たるものネタを作り続け、板(舞台)の上で勝負すべし』
みたいな価値観にずっと違和感を抱いていました。もちろん芸人さんのネタは大好きですし、リスペクトしかないです。
でも自分はというと、事務所から単独ライブをやれと言われてもやりませんでした。僕は、テレビに出るようになったらネタはやらなくていいと完全に思っていたタイプです。
あくまで僕の考えです。相方(又吉直樹)はそうではなかったと思いますが。
よく『自分大好きだよね』と笑われるけど、いやいやインスタをやってる時点でみなさん
『自分好き』がにじみ出ちゃってますから。
そうじゃない顔をし続ける自意識のほうが、一周回って一番ダサいと思うんです。本当はニューヨークのセントラルパークで “セントラルパークのロゴ入りパーカー” を着たいのに、
ダサいと思われるのが嫌だからとやめるのが一番ダサい。
お笑い界を登山に例えるなら、当時は7合目くらいにいて、
たまに頂上にいる芸人さんたちに呼ばれて仕事をしてきました。たくさんの先輩方に何かと綾部、綾部と気にかけ、誘っていただきました。
大した才能がないのに、才能がある方たちと同じ空間を共有できることこそが僕の才能だった。だけど代わりはいくらでもいるし、このまま同じことを続けてもワクワクしない。
40歳から60歳までの20年間を人生で一番ハチャメチャしたくて、別の山を登ることにしたんです。
死に物狂いでハリウッドを目指しているかというと、まったくそういうことはなくて。
かといってアグラをかいているわけでもないんですけど。別に軽いノリで夢を追いかけたっていいでしょ?って思うわけです。
ノリは軽くたって、どれだけ自分を信じて突き進めるかが大切。詳しくは知らないですけど、あのライト兄弟も『鳥みたいに飛べたらいいなー』っていうノリから入って
それを強く信じて貫いたから、飛行機を作れたのだと思う。誰よりも僕が、僕の一番のファンとして、僕の物語にワクワクしていたいんです。
しかしどうしてみんな、頂上に到達することばかり注目するんだろうね。
登山の途中でおいしい湧き水や神秘的な洞窟に感動することもあれば、
熊に襲われかけて震えることもあるでしょ?
そんな途中の風景を、ただただ楽しんだっていいと思うんです。たとえ5合目で下山しても景色を見た経験はなくならない。
もうそれだけで山に登ってよかったと思えるような素敵な出会いだってある。
日本に帰ったほうが面白そうと思えば秒で帰国します。
『登ってた山がやっぱ違ったから、恥ずかしながら帰ってまいりました、どうぞ笑ってください』
で、すべておしまいです。そこにプライドなんて一切ない。なんでみんな、山を下りることを、そこまで恐れるんでしょう。
僕みたく明るくポジティブになれと言いたいわけじゃ決してありません。
ただ身体の健康を気遣うように、自分の意思や感性をもっと大切にしてあげてほしいんです。
人生は本当に一度きり。
時間はあっという間に過ぎ去ってしまう。山登りの途中で大雪や台風に遭遇することはあっても、自分に正直に生きるってことは、
基本的に心はずっと晴れ晴れとしたものですよ。
それだけは断言できます。
(綾部祐二)