
タイトル「名人」を目指す棋戦。持ち時間は1日制対局で最長の各6時間。
例年6月から翌年3月まで各級で行うリーグ戦 (9~12局) で昇降級者と順位を決める。
A級 の優勝者が名人への挑戦権を得る。
これからファンが最も期待するのは、藤井聡太名人からタイトルを取るシーンになる。
完全に諦めているという気持ちでもないので。
諦めたらもう研究とかしないと思う。自分が元々いたポジションに戻ることは、まだ諦めているわけじゃないです。
藤井とのタイトル戦は過去6度あり、全て敗れている。
2023年の名人戦も挑戦を受けて失冠し、19年ぶりの無冠に転落した。
長く頂点に君臨した棋士が雪辱を期していないわけはない。
でもあえて口にはしないだろうと思った。
以前、彼は言っていた。
言葉は残る。
軽々しく言って、無理だったじゃんってなるより、言わずに意外とできたじゃんって方がいい。
ところが、不惑の棋士は22歳の七冠に勝つ覚悟を明確な言葉で表明した。
順位戦を戦い始めたとき、まだ高校1年生でした。
何も考えてなかったですよね。というか何も知らない。
順位戦が名人につながっていく、みたいなことは考えないわけです。中学生の時、順位戦の記録係はC級2組からひと通り務めましたけど、
A級の谷川ー加藤戦 (1999年9月) とかは、さすがにA級は違うな、と分かりました。
別次元の話なんです。
高校卒業後、すぐに王座戦で羽生王座に挑戦し、翌年には20歳で竜王になります。
でもタイトルホルダーとして臨んだ2期目のC級1組では6勝4敗でした。
竜王獲得が先行しちゃって、「上がんなきゃおかしいでしょ」という目で見られる
プレッシャーは大きかったですね。
勝って当たり前、みたいに見られ続けるのは今までとは全然違う苦しさがありました。
B級2組は全勝で1期抜けでしたが、B級1組は2期続けて7勝5敗と苦労した。
昇級候補の筆頭とか言われた1期目、いきなり1勝5敗に追い込まれて。
メンタルは最悪でした。残り6戦を3勝3敗ではたぶんアウト。4勝2敗でも危ないのに、
ここまで1勝5敗の人が、ここから5勝1敗でいかなきゃいけない、というのは
相当大変なんです。単純に技術が足りてなかった。
結局は、以降6連勝して7勝5敗で降級を回避します。
でも、1ヶ月に1局ずつしかないから、なかなか楽になっていかないのが順位戦です。
挑戦や昇級を目指せるうちはいいですけど、どれだけ勝っても残留しかないって
地獄なんですよ。
ようやく到達したA級では、なかなか名人挑戦にまで至らなかった。
33歳だった8期目では降級の憂き目にも遭います。
いつまで経っても名人戦に出られない、というもどかしさを抱えていたら落ちちゃうわけですからね。
もう完全にどうでもよくなりました。静岡での最終戦の帰り道、桜を見に行って、しばらく将棋なんて指したくない、
ああ、自分はもう名人戦には出られないんだな……と思いながら。
でも、B級1組を12戦全勝。
1期で復活したA級も9戦全勝で挑戦して最短距離で名人を奪取しました。
3連覇後に失冠しましたが、今夏の王位戦でも藤井王位に挑戦した。
1勝4敗で敗退しましたけど、過去のタイトル戦より内容で勝る将棋が多かった印象もあります。
王位戦は妥当な結果で、2勝はできたかもしれないけど3勝はできなかったという内容でした。
でも、2勝はできたという気持ちがあるなら一歩ずつ詰めていくしかない。今まで1勝4敗だったものが2勝4敗になれば、次は分からないから。
足をケガしたと聞きました。
ひざの前十字靭帯を断裂して、再建手術を受けなきゃいけないんです。
たぶん2,3ヶ月は今と同じような将棋の研究はできなくなります。
現代は将棋界が始まって以来、一番厳しい競争の時代だと思います。
いつの時代も年長者が思うことかもしれないですけど、若い人は強い。一方で、55歳前後になった羽生世代の先輩方がまだあれだけ勝っている。
もう弱い世代は存在しません。
目立たなくなっていく自分に対して、いかにして折り合いをつけていくか
ということは考えたりします。
フェイドアウトの仕方も大事になってくる。
競馬やカーリングなど、多くの趣味を持っていますが、盤外で今いちばん関心があることって何でしょう?
今ですか……あんまないかも。今は将棋に関心が向いています。
というか将棋以上に関心があるものはない。年齢的に、将棋に関心を持たざるを得ない。
でも、外的要因(足のケガ)があって借金を背負っている状態をリセットしなきゃしょうがないですね。
でも、そんな状態で、もう歩くこともできず、研究なんて全くできないような状態で
自分がどんな将棋を指すかということには興味がありますね。
(渡辺明)