まあ僕がずっと言ってきたことですけど、本を読むのってね、やっぱりいいですよ。
「いや、今まで本読んできてないから、30代なって今更本読んでもな⋯」
って思う人、多いと思うんですよ.なかなか30代から新たに趣味を見つけて始めるって、
「先行してその趣味をやってきた人に追いつけない」
とか思ってしまうじゃないですか。
でもそんなん本当関係なくて。
本1冊読めば1冊分が蓄積されるもんやと僕は思ってるんで。人との比較じゃなくて、俺は何千冊だとか俺は何万時間読んだみたいな勝負じゃなくて、
自分自身の人生にとって、1冊読めば1冊の価値がちゃんと返ってくるから。こんな分かりやすい投資ないと思うんすよね。
本高いですよ、最近。
もう単行本なんか2000円するし、紙の値段上がってるんで。
2000円とか2500円するものもあるし、文庫本でも5~600円、1000円近くするものもあるんですよ。高い。
だけど、他のものと比べたら安いですよ。
ご飯食べないと人間生きていけないんで、でも定食食べても1000円近くいくじゃないですか。
お酒飲んだら1杯で1000円とかある中で、文庫本1000円は3時間、4時間、人によっては5~6時間、
で毎日2時間ずつとか、少しずつ読む人やったら2~3週間、1ヶ月かけて読み終わるとかもあるって考えたら、
1000円ですごい時間を過ごせる。しかも本って再読、2回目読んだ時の方が面白いものも多いんで、ってなると
安くはないけど、その値段に価値は見合ってると思う。
むしろ僕、昔300円で文庫本売ってた時、なんでこんな安いんかなと思って。
それでも僕、金なかったから100円で3冊とか、100円で5冊とかの古本を買って、読んでましたけど。
今は高いけど、それでもそれぐらいの価値は十分にあると思いますし、
歳取ってもできる趣味やし、ほんまに退屈な時間がなくなるんで、読書さえできれば。
僕は面白いから本を読んでるだけなんですけど、面白いし楽しいから読んできたけど、
「振り返ってみたらどのような効果がありましたか?」みたいな。で考えると、例えば小説やったら、作家が誰かの人生の一時期だったり半生だったりを
書いてたりするわけですよね。それが自分の中にインストールされるんで。
あ、なるほどな、ある人はこういう時にこういう風に考えるんや。
俺と一緒の部分とちゃうとこがあるな、ってなるじゃないですか。
そしたら、自分の生き方と近いところは補足されるんですよ。
より明確に言語化できて、整理できるんですよ。で、違うところは新しい道筋というか、新しい価値観を導入できるから、
選択肢が広がっていくんですよね。これをどんどん、10冊目読めば10冊分の、自分の中の何かが強化されて、
新たな道筋が生まれたみたいな。「多声性」って言うらしいんですけど、声がこう複数になってくるみたいな。
小説を読むことでそういうのが得られるらしくて。
だから、誰かと議論になった時に「絶対こうだ!」ってなってたようなタイプでも、
読書することによって「俺はこう思うけど、こうかもしれんし、こうかもしれんし、
こうかもしれんし、こうかもしれんし」の中に対話してる相手の意見があったりする。「ああなるほど、そうだよね、これもあるよね。だけどこうこうこうで」っていう風な
物の考え方が立体的にできてくるから、いろんなこと考える時に楽になるというか。相手の言うことにいちいち反発せずに済むというか。
「そうですよね~」みたいな、「そういう考え方もありますよね~」って
受け入れやすくなるんですよね。
その中でも、どうしても自分の感情が伴った思考を譲れない局面はいくらでもあるんですけど、
でも自分も楽になるし、ちゃんと建設的な会話ができたり、相手の立場になって物を考えられる
っていうのがあんのかな。共感力、あと新しい価値観の発見みたいなものが読書で得られるんで、おすすめなんですけどね。
ま、もちろんね、毎回こういう話する時言うてますけど、それは映画でも一緒かもしれんし、
あらゆるエンターテイメントは同じような効果を持ってるとは思うんですけど、
小説とか本は一対一の関係やから、特にそういうのが強いかなっていう風には思うんですよね。
趣味って、誇ったりするためにあるもんじゃないじゃないですか。
自分との付き合い方やから。ま、趣味じゃなくてもいいんですけど、30代なったし、
20代を振り返ったら本10冊も読んでなかったなって思うんやったら、
30代は1年に1冊ずつ読むかみたいな、それはそれでめっちゃいいじゃないですか。
「本好きですか?」「いや好きじゃないんですよ」「あ、そうですか」で終わってた会話が、
「僕ね、本読むん得意じゃないんですけど、1年に1冊だけ読むって決めてるんですよ」みたいな。「何読んだんですか?」ってめっちゃ聞きたいですよね(笑)
「え、去年は何読んだんですか?」みたいな。そんなんでもいいじゃないですか。
その1冊を大事に、それだけ試しにやってみるとか。
楽っすよ、100歳まで生きるとしても、30歳やったら死ぬまでに70冊。その読み方、いいかもしれないですね。
そうやって自分に合った冊数決めて読んでいくと。1冊で既におもろいけど、読めば読むほどこう、今までの本の蓄積、読書量が蓄積されて、
さらに面白くなっていくものでもあるから、ぜひぜひ勧めたいですね。
(又吉直樹)