(セカンドキャリアを充実して過ごすために、趣味のほかにはどんなことが大切だと考えていますか? )
人間関係はとても大事ですよね。
若い人もそうなんだけど、承認欲求が強くなっているような気がするんです。
特に今の時代は、年々世の中の状況が変化して、自分の経験値があんまり役に立たなくなっている。その自信の無さだったり、人とのつながりが薄れたりというのが、マウンティングという行為に
つながっているんじゃないかと思います。
でも、どんなにSNSで「いいね」がついても承認欲求はなかなか満たされない。
だから、僕にとって大事なのは暮らしの中で自分自身を満たしてあげること。
自己充足していることなんです。例えば、僕の場合、読書がそうです。
本を読んでいると、すごいことが書いてあったりするんですよ。
そのときに「こんなすごい本が読めて幸せだな」って思えるんです。
著者の世界観に自分が触れた気持ちよさみたいなのを感じて。ロングトレイルもそうです。誰とも競争していないし、どの区間を歩いても良い。
ただただ「なんて気持ちが良いのだろう、こんな景色の中を歩けて」って思うだけ。
承認欲求と切り離した、自分自身で充足できるものを持つことが大事なんじゃないかと思います。
ほかにも1970年代にアメリカの社会学者マーク・S・グラノヴェターが提唱した
「Weak ties理論」というのがあります。ウィークタイズとは、「弱い関係」のこと。
じつは、一緒に接することの多い家族や会社の同僚よりも、
たまにしか会わないとかメールのやり取りしかしない人のほうが、
人生の大事なときに貴重な情報を持ってきてくれるという理論なんです。
僕は登山仲間とは、この弱いというか緩い関係なんです。
メンバーは総勢50名くらいだと思うんですが、Facebookでつながっているだけです。
登るときも主催者が山を決めて、みんなに集合場所と解散時間を伝えるだけ。
コースとか、来る来ないも自由。当日集合場所に集まった人だけで登るというのを毎月、10年近くやっています。
これくらい弱い関係だからこそ、お互いに負担が少なく、長続きしやすい関係なのだと思います。
(「弱い関係」をつくるうえで、どのようなことに気をつければ良いのでしょうか? )
あまり見返りを求めないということですよね。
良い球だけはあちこちに投げておいて、
もしかするとその中から良い球を返してくれる人がいるかも、くらいの心持ちで。
すぐ見返りを求めてしまうと、相手にも警戒されてしまいますから。
(とはいえ、なかなか考え方や生活スタイルを変えるのが難しい場合も……? )
自分のマインドを変えていくこと。
そのために、新しいことを学ぶ気持ちを持つこと。時代とともに変わる価値観を受け入れると同時に、ステレオタイプも消していく。
これ以外に方法は無いんじゃないかな。マインドを変えていくことは難しいかもしれませんが、今の平均寿命が男性81歳ほど、
女性が87歳ほど、そして20年後くらいには健康寿命がさらに延びているとも考えれば
60歳で退職して「残り少ない余生をどうしよう」ではなく、
むしろ「長い人生の後半戦をどう組み立てるか」という新しいマインドに切り替える
必要があると思います。
(長い人生の後半戦の組み立て方として、日常的に意識していることは?)
僕がやっているのは、できるだけ丁寧に日常を維持することです。
それは仕事や山登りのような活動だけじゃなくて、例えば歯を磨く、髪を切る、
料理をする、掃除をする、ゴミを出す……。
暮らしの中のありとあらゆる細部を丁寧に維持していくということですね。サステナビリティの基本って、
「持続する暮らし」をちゃんと構築していくことだと思うんです。
身体も、精神も。
「なにかを得れば幸せになれる」ってみんな思うじゃないですか。
家とか高級車とか、洋服とか、生活にプラスができれば幸せだって。でもそうではなくて、イライラするとか体調が悪いとか、
生活の中での「マイナスを減らす」方向を考える。
そのほうが、持続する暮らしを構築できると思います。健康な体、健康な精神を維持する。
そのために意識してできることは、案外、身の回りの生活に多いものですよ。
(佐々木俊尚)