「君たちはどう生きるか」の評価が分かれる原因

君たちはどう生きるか」の評価が分かれる原因はですね、実は世にも珍しい、アニメで作られたアートなんですよ。
だからアート系の人、アートがわかる人にはウケるんですよ。

なんでアニメで作られたアートが世にも珍しいのかっていうと、映画もなかなかアートにならないんですよ。
だって映画って共同作業だから、おまけに予算が山ほどかかるから、プロデューサーとか出資者に、
「こんな作品です」っていうのを説明しなくちゃいけないんですよ。

で、説明すればするほど、説明した言葉にみんな囚われて、それをやろうとするんですね。
そうすると、作家が持ってる「自分でもなんでかわからないもの」を説明しなきゃいけなくなると。
説明した瞬間に、それは作ったら違うものになっちゃう。

だから、アート作品っていうのは、個人作品ではできる、小説ではできる、漫画でもギリギリできるんだけども、
映画ではなかなかできにくい。

ところが、実写映画っていうのはありがたいことに、天気とか俳優の演技は思い通りにならないんですね。
だから偶然、アートに近いものができることがあるし、あとは監督が完璧主義者だったり、あまり周りに説明しない
高圧的な強い権力を持っている場合は、やっぱこれもアート映画ができる場合があるんですけども、
アニメーション映画の場合は絶対そうじゃないんですよ。

鈴木敏夫と話していて「アシタカせっ記」というタイトルにしたかったのに「もののけ姫」というタイトルにされるように、
共同作業である以上は、濃密な打ち合わせを繰り返していくうちに、絵コンテを描いたりするうちに、
自分がやりたいことを映画より先に具体化しちゃうんですね。

そうするとそこから、自分が持っていた根源的な「こんなことがやりたかったんだ」っていう発見みたいなものが、
どんどんどんどん失われていくんですよ。

ここがねー、映画とかアニメ、特にアニメってさっき言ったように天然の光とか俳優の演技みたいな要素がほとんど無いわけですよ。
演技の秒数まで全部ストップウォッチで決めて、その範囲内でやってっていう全部全部全部予定調和で作っていくものだから、
アニメーションでアートなんて作れたもんじゃないはずなんですけども・・・今回できちゃったんですよね。

実は宮崎駿自身にもわかっていないっていうのは、関係者の証言みたいなものを聞かなくてもわかるんですよ。
なんでかって言うと、宮崎駿が、このストーリーは、このキャラはなんでこうなるのかわかってないから、そこらじゅうで矛盾してるわけですね。

出てくるキャラクターが、これは宮崎駿に違いない、これは鈴木敏夫に違いないと言うふうに、みんな当て物してるんですよ。
Twitterでもそういう情報やってるんですけど、結構バラバラで結構矛盾してるんですよ。
当たり前ですよ、それは宮崎駿が矛盾しているからです。

これまでの宮崎駿だったら、絵コンテをやって、それを作画担当と打ち合わせするうちに、これらの矛盾が全部整理されちゃうんですね。

で、整理された方が、統一されたレベルの高いものがあがるんですけども、今回レベルの高いところを目指してないんですよ。
レベルがあんまり上がらなくてもいいから、矛盾したものをそのまま出そうとしているわけですね。

だから、アオサギの男が何を象徴しているかというのに関しては、宮崎駿の中でもバラバラなんですよ。
シーンごとにバラバラと言ってもいいぐらいです。

宮崎駿もこのストーリーはなんでこうなってるのか、これは何なのかっていうのはわからないし、説明できないまま作れたんですよ。
説明できないまま作れるということが、いかにものすごくて、素晴らしくて、観客には迷惑なことかっていうことですよね笑

説明するつもりもないんですよ。
ただなんとなく、こうしかない、こうなるのじゃないかと思った。
なぜそうなるのかは、見る人が勝手に考えてくださいっていう映画なのでですね、
この不親切さに腹が立つ人には駄作なんです。

で、こういうアートに慣れてる人にとってはもう大好物なわけですよ笑
いやー、ありがとうございます、美味しい美味しい、だって作者もわかんないんでしょ?
って、みんなニコニコパクパク食べるわけですよ笑

この人物は鈴木敏夫だ、この建物はスタジオジブリだというふうに大興奮して当て推量するわけです。
で、どんな当て推量しても矛盾が見つかるという楽しさ。
そりゃそうですよ、宮崎駿もよくわかってないんだから、矛盾するんですよ。

岡田斗司夫はどんな解釈するのかって言われてるんですけど、この作品は整合性が取れていないので、
これ実は解釈するのに不向きな作品なんですよ。

宮崎駿の夢の話を聞いていると思ってください。
「あーおじいちゃん、それねー多分あなたにとっての母親の関係だと思うよー。
 無意識に作品に出ちゃうねー、面白いねー」ぐらいのスタンスが、ちょうどいいです。

そういうおじいちゃんの戯言というか、やけに面白い戯言を聞いていると思ってください。

岡田斗司夫