おばあちゃんが焼いたパイ

魔女の宅急便』というのは、もう言わなくてもわかると思いますが、あれはジブリのアニメーターの女の子の話なんです。
子供の頃から絵を描くのが得意という能力を持っている女の子が、東京に出てきてスタジオジブリみたいなところに縁あって、
アニメするようになりましたという話。

自分の趣味であった絵というものを、社会の役に立つアニメという形に変換する。
それが徐々に徐々に、そのアニメは別に社会に必要とされていないかもしれない、
そのアニメのメッセージは古臭いかもしれないと思うようになる。

「俺のアニメは古臭い」というのは、魔女の宅急便の中ではっきり言っていることなんです。
天空の城ラピュタ』の頃のような、まっすぐな少年少女が正しくて、汚い大人の陰謀みたいなものに負けるな!
っていうような内容自体がすごく古臭いということは、宮崎駿も自覚してるんですね。

それが、おばあちゃんが焼いたパイ。
そのすごくよくできたパイを一生懸命キキが届けようとするんだけど、
子供たちは「また同じパイ」「もう飽きた」「食べたくない」。

宮崎駿のアニメを見るのはもうアニメファンだけであって、じゃあ肝心の子供たちはどうかっていうと
となりのトトロ』みたいな作品は別として、宮崎駿が本気で作っているような作品というのはもう
「どうでもいい」「古臭い」と子供たちに思われていることを、宮崎駿はすごく自覚的に捉えていて
それを魔女の宅急便の中でこっそりとカミングアウトしている。
この一連の流れは素晴らしいんですよ。

キキはそのパイを届けるだけの役割、つまり宮崎駿が考えたお話を作るだけのスタッフにしてみれば
正直宮崎駿の話はたぶん古臭いと思っているし、ジブリの中でもそういう話はおそらく出ているんですね。
それが、おばあちゃんの作ったパイはもう古臭いという話の中に織り込まれている。

で、その女の子が自分の能力に、やっている仕事自体に疑問を持ってしまって、飛べなくなっていく。

岡田斗司夫