お母さん

わたしはみんなで分かち合える正義の話なんてしてないの。
わたしの都合の話をしてるだけ・・・。

わたしは嫌だったんだ。
自分がお母さんになってしまうのが。

嫌だったんだよ・・・。
あんたの夜泣きに起こされたのも。
どこにでもついてきてひとりの時間が作れなかったのも。
どこに行ってもじっとしていないあんたから目が離せないのも。
好き嫌いすんのをちょっとでも食えるように色々工夫して料理したのも。
歩くことに疲れると抱っこばかりせがむのも。
同じ本を何度も何度も読み聞かせさせられ続けたのも。
あんたの泣き声がうるさいと近所のババアから嫌味を言われたのも。
花壇を踏み荒らして怒鳴り込まれたことも。
熱を出してうなされるあんたが心配で一晩中寝られなかったのも。
安定した生活のために大して好きでもない男のところに身を寄せるのも。
わたしに笑いかけるあざとさと、それを嬉しく思ってしまう自分も。
辛いことからは逃げていいってみんな言うくせに、親であることから逃げることだけは誰も認めてくれないのも。
親を捨てるのは肯定されるのに子を捨てるのは認められないのも。
あんたさえ居なければって毎日思うのに、寝顔見てると許しちゃうのもさあ!!

得体の知れない「お母さん」がわたしの中で大きくなっちゃうんだ。
わたしの行動はその「お母さん」が決めて、元々のわたしからは権利が奪われていく・・・。
それを受け入れようとする自分が・・・本当に嫌だった。
アンタのために生きたいと思ってしまうのが本当に嫌だった・・・
アンタの成長を行動を嬉しく感じるのが本当に本当に嫌だった!!
これから先の人生・・・ずっとお母さんで生きていくのかって・・・

だって、わたしの人生だもん!!
わたしが消えてしまったら意味がないじゃない!!
だからアンタを捨てたんだ!!

悪い!?悪いでしょうねえ・・・
でも!!こちとらそんなこと分かってやってるんだ!!

アンタ!!なんでわたしの機嫌なんて伺ってんのよ!?
バカじゃないの!?

不公平でしょうが!!わたしばっかりが好きに生きて!!
アンタが不幸になっちゃおかしいでしょ!?

アンタ・・・わたしの子供でしょ・・・?
だったらアンタも自分の人生を生きなさいよ・・・
わたしを恨んでもいいから・・・

(郷里加代)