他人に「期待」を背負わせない

僕は、仕事をするうえでは他者に「期待」しないようにしているんですよ。

「期待する」って、一方的な“見積もり”を押しつけて相手に寄り掛かっている
危険な状態だと思うんですよね。
「これくらい結果出してくれるんでしょ?」って。

それは、相手に「頼る」ということとは違うことだと思うんです。

見積もり通りの結果が出てこないこともたくさんあるわけで、
他者に期待を寄せすぎてしまうと、見積もり通りにいかなかったとき
自分もろとも倒れてしまう。

だから、冷たいようだけど、まわりに期待をしすぎないようにしています。

極端な話、僕は最悪自分だけになったときに何ができるんだろう?
というところまで考えて映画を作っているんです。
長い製作期間では、やめていく人もいますから。

「こうなったらいいな」という、自分に都合のいい「期待」は徹底的に省いて、
できる限り「絶対にこうなる」と思えるまで考え尽くして映画を作りたい。

今って、SNSによって人が心のうちに秘めていたことがテクノロジーによって
テレパシーでつながったような、夢のような時代だと思うんです。

でも、同時にSNSは、「人が考えているむきだしの思いって、伝わらないほうが
いいんだな」ということを気づかせてしまった。

人が心に秘めたほんとうの願いなんて、正しくないことが多いと思うんですよ。
一番大事な望みは、必ず他の誰かとぶつかってしまう。

だからSNSは誰かの願いを他の誰かが叩く光景が日常になってしまっている。
「人は正しくあるべき」という期待を押しつけ合うからこそですよね。

その結果、今の、少数の誰かに「期待」を背負わせることで
大衆が心のバランスを保つ時代になったと思うんです。

(新海 誠)