「足りない」ということに気づけるかどうかが、伸びる伸びないの差

最初に断っておきますけど、僕に「ノウハウ」みたいなお話はなーんもないですからね。
僕、キングコングの西野くんみたいに「こうすればうまくいく」って頭で考えて
進んでいくのは下手くそなんですよ。

だから、僕に話せるのって全部「気づいたらこうなってました」って話なんですけど、
大丈夫ですか?

結局、野球でいう「将来チームの四番になる」と感じさせるような子は、
ほんまに誰もおらんとこでも謙虚になれるやつなんです。

人に対してじゃなく、自分の能力に対して本気で謙虚に向き合えてるかという話ですね。
自分の能力が全然足りないことを心の底からわかってるやつほど、めっちゃ切羽詰まるし、
めっちゃ勉強するし、何個も何個もネタを作り直して努力する。

逆に、いつまでもおもんないやつに限って、先輩の前で謙虚なフリをしてるだけで、
じつは自己評価がめちゃくちゃ高いんです。
心では自分のことおもろいと思ってるから、ネタもひとつしか作らんし、練習もしない。
自分の能力に対して謙虚じゃないやつは、伸びません。

(才能やセンスよりも謙虚さのほうが大事なんでしょうか?)

僕はそうやと思ってますよ。
第一線で活躍するビッグネームの方々見てると、売れてない若手よりよっぽど謙虚だし、反省してますから。

若手からしたら「もうええやん、これ以上何を頑張ることがあんの?」って感じなんですけど、
ビッグネームの人ほど現在進行形で反省と努力をしてるんです。
それをずっとM-1の2回戦しか行けてないようなやつが自信満々で不満ばっか言ってて、追いつけるわけがない

「足りない」ということに気づけるかどうかが、伸びる伸びないの差だと思いますね。

(最年少座長就任時に言った「伝統8割、革新2割でやっていく」の真意は?)

マンネリはサボり。これは間違いありません。

会社とかでも同じだと思うんですけど、せっかく立場を任されたのに何も変化を起こさないなら、引き継いだ意味がない。
新しい試みにチャレンジしていくことは、当然なくてはならないことです。

(逆に「伝統8割」って割と保守的なのでは?まったく新しいことにチャレンジしたくはなかったか?)

...これ僕一番言いたいことなんですけど。
仕事において、「やりたいこと」って何や?って話なんですよ。

健全な野心があって、「やりたい笑い」を追い求めるのはいいですよ。
でも、「やりたいこと」ばっかに必死になって、自分が何を求められてるのか
わからなくなるやつが多い。

新喜劇も、そりゃ「革新10割」にして目新しいことをやったら、
「小籔がなんかすごいことやってるぞ」ともてはやされるかもしれない。

でも、お客さんはあくまでも、先輩らが築きあげた「新喜劇」を慕って
観にきてくれてるいうことを忘れたらあかんのです。

もし僕が始めた劇団なら好きにしますよ。
でもそうじゃない。

さっき言うた「自分自身に謙虚じゃないやつ」が陥りがちなワナが、
「やりたいこと」しか見えなくなってしまうこと。

だから僕、“夢持たなければいけないハラスメント”はやめたほうがいいと思うんです。
「好きなことで生きていく」だけが幸せちゃうやろと。

好きなことで成功を収めた人がいるのはいいですよ。素晴らしいことです。
でも、皆のやりたいことがすべての仕事でキレイに用意されてるわけじゃないですよね?
「やりたくないけどやったほうがいいこと」が仕事として求められることも、世の中にはたくさんあります。

そこで、目の前の仕事を、切羽詰まりながら謙虚にやれるか。
「伸びる人間」っていう質問に答えがあるとするなら、こういうことちゃいますか。

若い方には、「いろんな生き方あんねんぞ」と言いたいんですよ。
目の前の仕事をやる、やりたくないことでも誰かのために頑張る、それもかっこええと僕は思う。

「追ってた夢を諦める」ことだって、ときにはとても大切なことやと思うんです。
自分は結局、目の前の仕事や人とのつながりを大切にしてたら知らん間にここまで来てたタイプなんです。

若い方も、今はやりたくない仕事でも、切羽詰まりながら目の前の小さいこと一生懸命積み重ねてみたら、
その先に何か楽しいこと、待ってると思いますよ。

小籔千豊