服従の心理

ひたすら人間として生きていられた時代には、どんな場合も人間的に反応したでしょう。
しかし現代は?

人々は全体より部分を見ています。
分業により細分化された専門的な仕事をしていて、常に上からの指示で行動します。

これが「代理人状態 (Agent state)」です。
権威に服従することで、自分の行動と心理的距離を取ります。

代理人状態の人間が得意な言い訳は、
「自分の仕事をしただけ」「私の仕事じゃない」「規則を決めたのは私じゃない」

命令に従うことが行動基準です。
他人の要望を遂行する道具のようになるのです。

兵士や看護師や役人、俳優や会社員、学者や芸術家も誰かの代理人です。

代理人になるかどうか、被験者は選べるはず。
しかし一旦受け入れれば、もう引き返せません。 

世界中の心理学の入門書が、服従実験を取り上げて論じている。
実験の手法や結果は、今も批判され続けている。

しかし権力が認めた暴力が整然と行われるたびに、服従実験は必ず話題に上る。
答えは出ていないのだ。

私たちはまるで操り人形のようだが、知覚を持った人形だと信じている。
自分を操る糸に気づくことができるはずだ。

その気づきこそが、自由へと続く道の初めの一歩になる。

アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発)

 

服従の心理 (河出文庫)