凡庸な悪

考えるとは注意深く直面し、抵抗すること。

世界最大の悪は、ごく平凡な人間が行う悪です。
そんな人には動機もなく、信念も邪心も悪魔的な意図もない。
人間であることを拒絶した者なのです。
そして、この現象を、私は”悪の凡庸さ”と名付けました。

今世紀に現れた悪は予想以上に根源的なものでした。
今ならわかります。
根源悪とは、わかりやすい動機による悪とは違います。
利己心による悪ではなく、人間を無用の存在にしてしまうことです。

私が望むのは、考えることで人間が強くなることです。
危機的状態にあっても、考え抜くことで破滅に至らぬよう。

ハンナ・アーレント