老害よりもタチが悪い「ソフト老害」

40代の人は「老害」と聞くとどんなイメージを持ちますか?
老害をネットで調べると、

「自分が老いたのに気づかず(気をとめず)、まわりの若手の活躍を妨げて生ずる害悪」

と出てくる。ある政治家が思い浮かんだりしませんか?

60代、70代でその会社のことを決定出来る力を持っている人が、時代の変化を感じられずに、
自分の意見を正義にしてジャッジ&ゴリ押しし、若者たちが迷惑を被るパターンが多い。
僕自身も振り返ると、若い頃は老害による被害をいくつも受けてきました。

若者たちが必死に作った企画書は秒でスルーされて、

代わりに、「上の人」が飲み屋で思いついた一言を、「周りの大人」たちが持ち上げて、
その成立してない企画を制作する「現場」に下ろしてくる。

「現場」の人たちは「こんな企画、成立してないじゃないですか」と言うが、
大人たちは「上の人」の思いつきだから絶対成立させろと言う。

いざなんとか形にしてみても、結果ふるわず。
すると「上の人」は「俺が思っていたのはこんなんじゃなかった」と言う。

すると「大人たち」は、「お前たちがちゃんと作らないから」と言って、
「上の人」がその場しのぎで言ったキーワードをまた押しつける。

そもそも「大人たち」は、「現場」出身なのだから、成立してないのなんてわかっているのだが、
そんなことはどうでもいい。
「上の人」に気に入られればそれでいいのだ。

結果、「現場」の人たちが四苦八苦するが、どうにもならず、ソレがさらりと終わっていく。
老害による、テレビ局あるあるの被害。
どこの会社にもあるでしょう。

この場合、老害の加害者は二人いると思います。

まず「上の人」です。
「上の人」の一言で、下の人たちがどれだけ動かなきゃいけないかもっと想像してほしいのですが、
自分の思いつきが形になるのが嬉しくて、言ってしまうという老害
自分の感覚が、時代とかけ離れていることに気づかないという老害

そしてもう一人は「大人たち」です。
「上の人」が思いついたことが、絶対成立してないとわかっていながら、
その人に認められたいがために、それをゴリ押ししてくる。
僕はこっちの立場の老害がやっかいだと思うし、罪が重いと感じています。

また、厄介なのが、こういう老害による被害の話を聞いた他局の人が
「あの局のあの番組、上の人の思いつきで大変らしいね」とか言うのだが、
からしたら、その局でだって同じようなことが繰り返し行われている。
隣の老害はよく見えるんですよね。

こんな老害の被害を、若い頃は、まあよく受けました。
ただ、たまに、そういう企画の中で当たりが出てしまう時があるから、迷惑な話です。
こういうもので当たるのって奇跡に近いと思うのですが。

 

僕は「老害」による被害者側だとずっと思ってきました。
でも、この一年はそうでもないと思っています。

老害は60代、70代の話ではない。
40代から老害を与える加害者側に立っている人もかなり多い。

事の始まりは、とあるYouTubeチャンネル。

『街録ch』という人気チャンネルをご存じでしょうか?
三谷三四郎というテレビディレクターが町中で、とんでもない人生を経験した人たちに
インタビューするもので、これがとてつもなくおもしろい。
三谷Dは、元々お昼の番組『笑っていいとも!』のADさんで、そのあとディレクターになり、
僕もいくつか番組を一緒にやっていたことがある。

三谷Dが、テレビから少し離れて、『街録ch』を始めてヒットし始めたときに、嬉しくて電話した。
「良かったな、三谷」と言っても、なんかノリが悪い。
あんまり嬉しそうじゃない。

その理由が一年後にわかった。
三谷Dとの一回も使われてないLINEに、いきなり映像が送られてきた。

それはライターの吉田豪さんに三谷が逆インタビューされている『街録ch』の映像。
まだ公開されてないが、ちゃんとサムネイルも入っていて、そこに「鈴木おさむ
逆恨み」と書かれている。
それを見て心臓の鼓動が速くなる。

そしてLINEの文章に、いきなりアップするのも卑怯だなと思ったので、
とりあえず公開前に送ります……的なことが書いてある。

見てみると、僕ととある番組をやっていた時のこと。
三谷たちが必死に作ってきた企画やVTRが僕の一言で、簡単になくなったり、直されたり。

しかも、僕の意見をプロデューサーや演出たちが大切な発言として、受け入れて、
その通りにしてしまう環境に対して激しくキレていた。

僕ら作家は10以上の番組を担当し、週に一回、番組の会議に来て発言する。
ディレクターは一週間、その会議に向けて気持ちを込めて作り上げてくる。

だが、それが週に一度そこに来た僕らの発言でひっくり返される。
三谷は僕に対してもですが、その環境を作り上げている「大人たち」や
局にも問題があると提言していた。

見終わり、色んな感情がこみ上げてきたが、三谷にはこうLINEした。
「おもしろいじゃん」と。

三谷はその言葉を求めていたらしく、その後のLINEの文面は急に穏やかになり、
結果、後日、彼のチャンネルに僕も出演して、自分の人生や思いを語った。

三谷のVTRを見て気づいた。
これって、自分は「老害」の被害者側だと思っていたけど、加害者側に立ってたんだよなと。
自分も40代から老害の加害者側になっていたんだと気づき、
40代から「ソフト老害」は始まっているのだとわかった。

 

 

そんな僕がどう思われているかわかりませんが、もし自分が若者だったら、
そんな「大人たち」の方が気持ちよく映るのではないかなと思っている。

鈴木おさむ

 

仕事の辞め方 (幻冬舎単行本)