本を読むということは、単なる活字を目でなぞり、そこから遠い異国の情景を思い浮かべたり、
目に見えない哲学や理論を構築したりするもので、想像力が必要である。
想像力が欠如した人間には到底味わうことができない媒体だ。そうした想像力があれば、暑い車内に幼児を置き去りにしたらどのような結果を招くか、
電車内で化粧をしたら周りの人間がどう思うのか、ということに思い至るはずだ。
本をよく読む人というのは、地位や収入に関わらずどこか品性があり、
含蓄のある話をするので一緒にいても面白い。どんなに偉い人でも、本を読まない人間を尊敬する必要はない。
人によく似た生き物、サルに近いんじゃないかと思えばいいだろう。
読書は仕事に役立てるためにするもの、と決め込んでしまえば、
自分が現在やっている仕事に関係する本しか読めなくなってしまう。だが、仕事の幅を広げ、仕事のためのアイデアを生み出すのは、
一見仕事にはまったく役に立たなそうな「今の仕事とは関係のない本」だ。
読書をすれば世界の裏側で起きていることもわかるし、はるか宇宙で起きていることもわかる。
自分ができない経験を、本の世界では疑似体験できるのである。実際にその場所に行ってみないとわからないのは、想像力のない証拠である。
想像の中で遊ぶのが、最高にぜいたくな遊びではないだろうか。
(成毛眞)