芝村流チュートリアルメソッド

まず前提として、TRPGは人間同士で会話を行って進行して行きます。
その上で、TRPGを始める人は経歴や学習段階、趣味が一人一人違います。

TRPGに存在する色々な取り決めやルールを教える際、大事な事は「人を見て教える事を変える」です。
紋切り型の退屈な教えで時間を取らせるのも、もてなしとしては残念ですしね。

次に、チュートリアルで大事なのはゲームの概念と理念を最初に、ゲームの枠外で教えておくことです。
この部分については、学習段階に左右されず、何度でもきちんと、定義しなおすことが、コツになります。

というのも、ゲームの概念と理念は、GMによって変わったり、付け加えられることがあるためです。
GM紹介でシナリオやマスタリング方針をお話すると思いますが、もう一段階、
「このゲームはこういうゲームです、こんな風に遊びます。みんなはこんな感じで参加します」
というのを、確認してね。

物事を学ぶとき、最初に一番必要なのは理念と概念です。
これらは物事の骨格であり、個別の技術や知識は血肉にあたります。
骨格のない血肉は意図した筋肉にもならないということを、良く覚えておいてください。

T&Tとはどういうゲーム化の説明をする際に、
「T&Tとは均衡解を成立させるためにムーブ(移動)するゲームです」というのと、
「T&Tはサイコロを沢山振る豪快な、そして大雑把なゲームです」では、
同じシステムでも学ぶことが全然違うんですね。
なのでまず、骨格を定義してください。

次に、血肉の成り立ちですが、血肉、即ち知識と技術はですね、
概念の上のどこにあるかを教えることではじめて高い意味を持ちます。
これを必然性の理解といいます。人間、必要なことは覚えるのです。
また、位置さえ分かれば前後は資料を読んで補完することもできます。

ですから必然性の理解を学習者たち、ここではプレイヤー達に教えることで、
プレイヤーはどこの何をやって、あとは何を学べばいいのか見通しが立つようになるわけです。

具体的に例をあげてみましょう。

「T&Tは均衡解を成立させるためにムーブするゲームです」と理念を説明しました。
次に教えることは、
「ムーブとは移動のことです。移動はパラメーターのうち、速度(SPD)を使います」 でもいいですし、
「均衡解とは敵味方が攻撃力で均衡して互いにダメージを与えられない状態です」でもOKです。

どちらをどの順番で教えても、理念が明確である限りは分からないことを一個づつ埋めればいいわけです。

「均衡解は何故必要なのですか」
そういう質問が来たらこう答えます。
このゲームではプレイヤー有利の解ではプレイヤーは何もしないでも勝てます、と。

一方で敵が有利な解の場合、逆です。
プレイヤーは何もしないと自動で必ず負けます。

で。ぶっちゃけゲームなんで、何もしないでいいなんてことはないんですね、というと、
さといプレイヤーが「あー。じゃあ、かならず敵が有利な状態からはじまるんだー」とかいいます。
その通り。

で。どんな手法をとるにせよ、一気に形勢を逆転することは出来ません。
そこで出てくるのが・・・ 均衡解です。
「まず均衡せよ。しかるのちに針を一度でいい。プレイヤー有利に傾けよ。
傾いた時点で、プレイヤーの勝利は確定する」 というわけです。

ゲームとして盛り上げるのは「均衡をどうつくるか」なんですよ、というと、
プレイヤーは次は均衡になる手段をもとめていくでしょう。
チュートリアルは半ばまで成功しているわけです。

魔法使いは魔法で均衡をえようとし、ローグは走る事で、戦士はタレントや防御力で
均衡を得ようとするでしょう。

後は個別に教えてあげていけばいいわけですね。
初心者だってブイブイいわせたいわけです。
その方法をちょいとおしえるのが、最後のコツらしいコツですかね。
全部を教えちゃダメですよ。

物事を教えるとき大切なのは、自分で考えることです。
自分で考えてこうかな。こうだ! が、面白いのです。
考える余地はチュートリアルでも必ず残してあげなければいけません。
でなければつまらないチュートリアルになります。

「MR100の(老)トロール、初心者の相手には一番と、そう言う理由で殺されもせず、生きているトロールがいます。
これと三人の冒険者が戦わされるところからがゲームのスタートです」で、いいんですよ。
観客がにやにやしていて、貴方は敵は観客の方だなと思った、くらいの感じで。

三人の冒険者の戦力合計は6d6+6 対してMR100のトロールは 10d6+50
さあ、不均衡のはじまりです。
「え。戦士の防御力二倍でも1Tで死ぬよ」と戦士が呆然として言いました。
「最も簡単な均衡手段は奪われたのです」で、いいのです。
プレイヤーは頭を使い、ルールをひきます・・・

冒険者はヒントを得ようとします。
いや、まて、勝つ方法があるはずだ・・・ルールブックばかりではなく、状況をもっと良く見るんだ。
で、感覚のロール。
ここで生き残るために目を血走らせたローグが、防御力20の盾が壁にかけてあることに気付けば,
戦士の防御力二倍で均衡を得られるわけ。

ところが戦士が一人もいないパーティではこれでは均衡なんか得られないわけです。
ローグ、ローグ、魔法使いのパーティは一瞬目の前が真っ暗になります。
さあ、冒険のはじまりです、というわけ。

GMがゲームの作法や「これでもくらえ!」を教えるのはその後でもいいわけです。
そして、その後になって教えた方が、よほど覚えるわけですね。
必然性の理解は学習を促すとはこういうことです。

以上、 簡単ではありますが、チュートリアルのちょっとしたTIPSでした。

芝村裕吏