国のために死ぬことを失った世代

三島(由紀夫)、あの人と同じ問題意識を持っているのは、1930年代生まれの方たちですよね、大体。
敗戦の時にティーンエイジャーだった人たちですね。

この人たちは「戦争で死ぬ」ということを、男の子の場合みんな覚悟していたわけで、そのことを自然に受け入れていた。
国運と個人的な運命が完全にシンクロしている、という経験を子供の頃に持っている。

それが8月15日にバクッと無くなってしまって、国は国、個人は個人で、国のことはもうどうなるかわからない。
アメリカの属国になってしまって、主権も持たない国家になってしまった。

それをどうやって取り戻そうか。
もう一度、国の運命と自分の個人的な運命がリンクしているという、ある種の陶酔感、高揚感をもう一回経験したい、
という欠落感みたいなものが、この世代に割と濃くあるんですよ。

 (内田樹