読書体験を重ねた人は、必然的に一度は左翼思想に傾倒すると僕は考える。
人間や社会に対する理想が純化され、現実が汚れて見えて仕方がなくなるからだ。
しかし現実は、左翼的な理想主義者には辛い世界だ。
左翼的な思想だけでは世の中は動かない。多くの人が現実の壁に直面する。
社会の不条理さはもちろん、理想を貫徹できない自分の弱さ、卑怯さを知ることになる。読書で純化した理想が現実に踏みにじられ、破壊される。
しかし、それが大人になるということだ。
現実世界を生きるということだ。
だから僕は、読書体験を通じて、左翼的な理想主義に一度も傾倒していない人を信用できない。
そうした人間は、人としての厚みがない。特に経営者はそうだ。
左翼的な理想主義とはつまり、世の中の矛盾や差別に対してアクションを起こそうとする姿勢だ。
「この間違った世界を変えなくては生きていかれない」というピュアな感情は、
それが実業の世界に入ったときに、イノベーションを起こす源泉になる。左翼でなくてもいい。
そうした思索を経ずに、金銭的に成功した経営者は、言葉に重みがない。
だから、その企業が掲げている「ビジョン」にも重みがない。
一時のブームに乗って成功しても、環境が変化した瞬間に衰えていく。
もちろん、現実から深い洞察を得ている経営者もいる。(中略)
学歴がないぶん、現実世界において理不尽や矛盾を飲み込んできた。
そこで獲得した嗅覚と人間力でビジネスの世界を渡り歩いている。しかし、誰もが彼らのような過酷な人生を送れるものではない。
だからこそ読書体験によって多様な人間、多様な人生を追体験し、
人間や社会に対する洞察力を手に入れるべきなのだ。
(見城徹)