「どうしたらキラーカードを持てますか」という質問はよく来ました。
仕事などの勝負において、自分の武器となるカードのことですが、
それは人に聞いて手に入るものではない。キラーカードは自分がつくりあげるものだから。
僕が角川書店に入ったときは、自分の企画を会議で通し、編集長と社長を説得すれば
誰かの本を出せるかもしれないという、小さなキラーカードしか持っていなかったわけです。それでたとえば尾崎豊ならば、当時カリスマ的な人気を誇っていて各出版社からオファーが殺到していた。
僕は7社目だった。出遅れた僕が、どのようにすれば見城さんにしか書きたくないと思わせることができるか。
そこを必死で考えるわけです。
食事をするチャンスがたった一回だけあったので、尾崎の最も根源的なところに響く言葉を、
のた打ち回りながら探しました。「これほど僕のことをわかってくれる人はいない」「この人になら命を預けてもいい」
と感じさせることができれば、たとえ7社目であろうと僕と組むだろうと思った。結果として、僕の前に並んでいた6社をごぼう抜きにして、尾崎の第一弾目の単行本となる
『 誰かのクラクション』をつくることができた。
38万部のベストセラーになり、伝説ができていった。
それは僕がキラーカードを切り、成功させたということになるわけですが、
実際は誰も見てないところで、もがき苦しみながら圧倒的努力をしているんです。だから、キラーカードをどうやったら持てるかと聞くだけで、「お前らはダメだな」と思ってしまいます。
現実のしんどいことにぶつかって生きて来ていないから、僕にそういう質問をしてくる。しかし、ちょっとでも現実と真摯に格闘していたら、キラーカードは自分でつくり出すしかないと
わかっているから、そんなバカな質問はしてこない。
(見城 徹)