「この先に幸せがある」という呪い

「頑張った先に幸せがあるのか?」っていう問いの立て方が良くないかもしれないですね。
幸せをゴールにしちゃってるから、この時点で。

幸せをゴールにしちゃうって辛いんですよね。
幸せがゴールになってるってことは、今幸せじゃないってことでしょう?

(う~ん、そうなのかな⋯)

ま、基本的にそういう風に働くんですよ、脳って。
この道の先に幸せがあるだろうなって思うと、イコール「今幸せじゃない自分」を意識させられるから。
脳はどうしてもそっち考えちゃうんですよね。

(この先これを頑張ったら何かが得られるとか、幸せになるみたいな発想自体が、今はダメなんだ)

うん、バックファイア起こしやすいですよね。
目的化しちゃうと、現在の自分との落差が生まれるんで。

ハードワークして幸せになるかもしれないし、なれないかもしれないし、それは何とも言えないですけど、
「幸せがあるのか」って考えた時点で、ま、無くなっちゃいますよね、どっちかというと。
可能性は立たなくなりますね。

何か理想的なものを追おうとすると、理想に達してない自分が際立っちゃうんですよ。
比較が生まれるんで。

ということは「今の自分って幸せじゃないな」って思うじゃないですか。
その思考に脳が占領されるんですよね。で、メンタル低下するんですよね。

結局「ハードワークこのままやってていいのかな」って疑問が生まれだして
虚無な感じでハードワーク続けていって燃え尽きるんです。

(じゃあ、収入への執着だったり、そういうものを捨てたら幸せになれる、っていうことでもないのか)

ま、どうやっても捨てるの難しいですよね。
ていうか捨てられないとは思いますよ、本能的なものではあるので。

肩書きに執着するとか、年収ってのはやっぱ指標として分かりやすい。
「群れの中の上位の人間である」という指標として分かりやすいから。
それはやっぱ人間の本能に埋め込まれてますよね。

昔のサバンナで暮らした人類とか、150人ぐらいのコミュニティで暮らして、その中でいかに上に行くかですよね。
で、上に行った人が、生殖のチャンスや、サバイバルのチャンスが高まるってのは間違いないから。
そこら辺で他人を蹴落としてとか、他人より上に行けっていう本能がどうしてもあるから。

そこにこだわっちゃうのはしょうがないですよね。

(なんか「幸せや理想を目的化して追っていくことが今を不幸にしてしまう」ということと、
 「人間の本能的に集団の中で上位を目指したい」ということが、バッティングしてるというか)

あぁ、バッティングしますよ。
人間ってそもそも幸せになるために進化してないですから。
あくまでも生存のためのツールでしかないから。

だから、幸せでなくてもいい。
生存に有利であればいいんですよ、進化の法則って。
そういうものなんで。

だから、本能に従ってたら幸せになるわけじゃない。

(じゃあ本能に従ってたら、上位の人間であろうと我々はしちゃうから)

そうそう。
生存率は上がったけど不幸になるとか全然あるの。

(じゃあ今を不幸だって思って、もっとよく成長しなきゃって思う本能が生まれて、
 結果的に今は不幸だっていう気持ちになって)

そう、ずっと永遠に不幸が続くっていう。

(それめっちゃ辛くないですか?)

辛いんです(笑)
生物ってそういうもんなんですから。

(そこへの解決策はないんですか?)

ある程度(本能に)逆らっていくしかないですよね、意図的に。

ここで共通してるのは、やっぱ自分でコントロールできないもの目的にすると、大体失敗するってことなんですね。
失敗するっていうのは、不幸に陥りやすいってことなんですけど。

ま、年収もそうじゃないですか。
運の要素強いじゃないですか。

自分で「年収高めるぞ」といってできるものではない。
肩書きも「昇進するぞ」といってできるものではない。

コントロールできないから、大体失敗するじゃないですか。
で、その失敗の時点で理想から離れることになるから、また際立っちゃうんですね。
自分の今の不幸が。

本の中でもずっと「自分にとって何が大事なのかを考えてください」ってことを書いてるんですけど。

これは、収入が大事とか、肩書きが大事とか、そういうことじゃなくてですね。
「収入や肩書きを得ることによって、自分は何を得たいんだ?」っていうことなんですけど。

(難しいな~その話。鈴木さんご自身は何を?)

僕はね、知識を体系化するってのがどうやら好きらしいんですよね。
大事らしいんですよ、どうも。

収入あんまり求めたこともないし、肩書きもあんまり求めたことないですけど。
知識とかはすごい集めがちで。

なんでなのかなというのを考えていた時に、自分が一番嬉しいのって、やっぱ
本書いてて1つの体系みたいのが出来上がった時なんですよ。

(本が出来上がった⋯考え方ができ上がった?)

そう、いろんな考え方を集めてって、ひとつなぎのストーリーというかね。
大きなひとまとめの体系ができた時にめちゃめちゃ嬉しいんです。
それがあるから本書いてるようなとこがあって。

だから、自分が何を喜ぶのかな?っていうことですけどね。
一番喜ぶの何だろうなって時のことなんですよね、質問としては。

(最近後輩にも言われたんですけど、「自分が何が嬉しいのかわからない」みたいな。
 「何を求めてるのかわからない」みたいな)

なるほどね。

(でもそれめっちゃ分かるなと思って。
 本当に自分はこれだっていうものに、どうやってたどり着けるのかなって)

なんとなく日々をモニタリングしてると「この時、心動いたな」っていう、
感情が動く瞬間が絶対あるので。どこかに。ちょっとでも。

それをずっと記録してって。自分の場合ですけどね。
心理療法でよく使われるんですよ、これ。本当に。

さっき僕が言ったのって「行動活性療法」っていうものの亜種というか、
自分なりのアレンジなんですけど。

虚務感に陥ってる人とか、うつ欲状態になってる人とか、日々喜びが見つけられない人に
処方されるやり方ですけどね。

(行動活性療法っていうのはどういうものなんですか?)

まさにさっき言った、日々の中でちょっとした感情の動きがあると思うんですよ。

これはちょっと嬉しい。
コーヒーの香りちょっと気持ちいいとか、それぐらいでいいんですけど。
散歩してて、いい日差しが来たとき嬉しいでもいいんですけど。

そういうのを全部書き出してって、点数つけてってみたいな。
その中で共通項を探してって、点数が大きめのやつから日々増やしていくっていうことを
ひたすら繰り返すだけの療法なんですね。

これすごい効くんですよ。

(それは何にどう効くんですか?)

さっきからも言ってるように、麻痺しちゃってる。
自分が何が大事なのかわかんないし、自分が本当に何で喜ぶのかが分からない、
っていう状況を探っていくための方法論ですよね。
それが分からないことには何していいかわからないし。

だから、一旦それが分かっちゃうと、日々のハードワークもそこに接続させていけばいいんですよね。
自分の場合もコアが分かったことによって、日々の論文を読むのとか別にそんな苦じゃなくなってきましたよね。

(じゃあ散歩してて気持ちいいっていうのを、日々モニタリング的に日記的に書いてて、
 それが多いなと思ったらじゃあ散歩をする回数を増やそうとか、そういうことでいいの?)

そしたらいろんな行動が出てくると思うんですね。徐々に感性が育ってくんで。
察知モニターみたいなね、脳が覚えてくるんで。

(それってどれぐらいやったら分かってくるんですか?)

最低でも2週間やってもらえれば、結構変わると思いますよ。
できれば8週間続けてみて欲しいですけどね。

この麻痺症状はなかなかね、生活習慣病みたいなもんだから。
意図的に鍛えていかないと戻らないですよね。

(麻痺症状なのか)

麻痺症状に近いんじゃないですかね。
よくあるのは、ハードワークによって自分の辛さを覆い隠す人。
一生懸命働いてれば、その根っこにある悲しさとか怒りとかに向き合わなくて済むから。

そういう人は結構いますからね。
それで擦り切れるってパターン多いんですけど。

(なんか「いちいちそんな辛いとか思ってたらやってらんないよ」みたいな)

ああ、そんな発想ありますよね。

(そんな泣き事言うなよみたいな)

ま、それはもうね、しんどいですから。
やっぱセルフケアできてないから。

(なんかそっちに行っちゃったら、もう頑張れないような気がしちゃったんですけど)

ああ、なるほど。
でも別にハードワークが悪いわけではないんで。
コアがあってのハードワークだったら全然いいと思うんですよ、別に。

(鈴木さんはその自分のコアを見つけた上でのハードワークっていうのができている)

本書くのなんて9割方は辛いことしかないですけど、でもまあなんとかやってるのはそういうことですね。
まあこの先に充実感あんだろうなっていうのはなんとなく分かってるんでやれてるって感じですけど。

痛みを麻痺させて生きていくと、酒に逃げたりとか、ハードワークに逃げたりとか。
逃げのハードワークとか、そういうものはいけないんですよね。
逃げてなければ別にハードワークでもいいんですよ。

(麻痺を取り除いた上で、ちゃんと自分にとって大事なことと接続するハードワーク)

そう。逃げでやるとどんなことも良くないんですよ。
SNSもそうなんですけど。逃げのSNSとか。逃げのゲームとか。まあ、全部そうですね。

(鈴木佑)

社会は、静かにあなたを「呪う」 ~思考と感情を侵食する“見えない力”の正体~ (小学館クリエイティブ)